※画像はクリックで拡大できます
完成したアナログムーブメントを、実際に時計に組み込んでいくのが、「Premium Production Line(PPL)」の中枢部である。
明らかに他の工程とは雰囲気が異なるこの場所で、オシアナスのマンタ、プロトレックのマナスル、G-SHOCKのMR-G、そして最新のG-SHOCK MT-Gが組み立てられる。
PPLのこだわりは徹底的な能力主義にある。山形カシオでは技術者のことを“メダリスト”と呼んでいるのだが、上位10%に当たるプラチナとゴールドのメダリストのみがPPLでの作業を許されるのだ。それほどプレミアムウォッチを作るのは難しい。
なにせMR-Gに至っては生産本数が少ないため、年に2~3回しか生産ラインに回らないという。熟練のメダリストたちも、MR-Gを作る時は特殊な緊張感が走るらしい。
しかし彼ら(女性も多いが)の優れた技能と豊富な経験が、プレミアムウォッチ戦略を支えているのだ。
PPLの作業ラインでは、ソーラーセルやダイヤル、針などが順を追って取り付けられていく。非常に繊細な作業を求められるが、大型のモニタとモデルに応じて専用設計された工具があるので、どんどん時計が組み上がっていく。我々の目には、あっという間の作業に見えたが、それでも1日フル稼動させても300~350本程度しか作ることができないというから、人気モデルが大量に受注を受けたとしても簡単に増産はできないだろう。
最終工程は半導体・TFT液晶工場並みに塵や埃を除去したクリーン度クラス100「スーパークリーンエリア」でケーシングを行い、それで作業はいったん終了となる。あとは、さらに別の部屋に送られて防水検査など入念な品質チェックとブレスレットの取り付けが行われ、ようやく最高峰ウォッチは完成する。
カシオにはハイテクというイメージがあるが、こと時計作りに関しては、かなり人の手の力を必要としていることが意外だった。しかしそのこだわりが、品質の高い時計を生むためには不可欠なのだ。
高級機械式時計とは異なるアプローチだが、最終的に人間の力がモノをいうのは一緒である。そのひと手間が、カシオの時計にエモーショナルな魅力を吹き込んでいるのだろう。今後のカシオのモノつくりに注目である。
Premium Production Line用の組み立てラインは、ムーブメント製造ラインとは別の部屋にある。ここは空気のクリーン度にもこだわっている。
ムーブメントの上にソーラーセルを収め、その上にダイヤルを貼り付けた状態がコチラ。
蛍光灯の明るさでもソーラーセルが発電して、時計が動いてしまう。それを防ぐために、作業のたびに完全遮光のボックスに収める。
針の取り付け作業中。専用器具を使って針を所定の位置に収め、さらにモニタに映して針ズレの有無を確認しながら作業を進める。
すべての針が取り付けられたら、横から確認して水平をチェック。モニタ上のガイドラインに合わせ調整するのは人間の手技である。
耐振動性能を高めて時計を守るため、ムーブメントの周囲と裏側に、赤いシート状に加工されたアルファゲルを挟み込んでいく。
ムーブメントがケースに収まったら再び目視でチェックする。傷や埃、針ズレなどをチェックし、乾燥機にかけてから裏ブタをつける。
ケーシングされたMT-Gは、別の部屋に送られ、防水性や電波時計の性能をチェック。最後にブレスレットを取り付ければ完成となる。
こちらが完成したMT-G。最新技術と熟練“メダリスト”たちのテクニックの融合から生まれた、プレミアムと呼ぶにふさわしい時計だ。