手前みそだが、私はカシオの時計が登場するたびに、技術者やデザイナー、商品開発者に、何回もインタビューをしている。いわば"定点観測"しながら進化の歴史を追ってきたという自負がある。
そしてその経験の中で出した結論が、「カシオとは時計に様々な機能を詰め込むことに全身全霊を投じてきたメーカー」であり、それが魅力だということ。
例えばG-SHOCKの場合、光発電や電波時計などの技術を、まず6900シリーズなど大型モデルに搭載する。そしてモジュールを小型化させ、最終的に小さな5600シリーズに搭載されることで"完成"とみなす。
そして小型化技術によって生じた余白に、また新たな機構を詰め込んで、大型モデルの搭載する…この繰り返しこそが、カシオの進化の歴史だった。
しかし今回はアプローチが全く異なる。2011年のバーゼルワールドで発表された『G-SHOCK GB-6900』は、新しい通信規格『ブルートゥース ロー エナジー』を利用して、時計とスマートフォンをリンクさせる時計。つまり互いに得意不得意を分け合い、相互補完し合う関係を築いているのだ。
この"足し算の時計作り"から"引き算の時計作り"への変化は、カシオらしくないともいえるだろう。
しかしここ数年のアプローチを見ていると、その戦略も納得ができる。カシオでは、立体的なダイアルによるビジュアル表現や操作性に優れたスマートアクセスなど、ユーザーフレンドリーな技術革新を提案し始めている。つまり、カシオらしさの指標が変わりつつあるのだ。
G-SHOCKは時計でありながら、ユースカルチャーとリンクすることで時代の寵児となった。そして今度はデジタルガジェットたちとリンクすることで、時計に対する新しい価値観を作ろうとしているのかもしれない。
カシオの進化は止まらないが、その結果はいつも刺激的であり、驚きに満ちている。これは当分の間、定点観測が止められそうもない。